自閉症スペクトラムの理解と支援

信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部
診療教授 本田秀夫


はじめに

 かつて自閉症は、稀にしか見られない重い障害と考えられていました。しかし、1970年代後半以降、典型的な重度の自閉症ではないけれどもその特性が見られる人たちも自閉症の仲間に含めようという考え方が、徐々に広まりました。わずかに自閉症の特性が見られる状態から典型的な自閉症までを幅広く含めたグループを、国際的診断基準では「広汎性発達障害」と呼び、自閉症の他に「アスペルガー症候群」などの下位分類が設けられました。一方、専門家の間では、「広汎性発達障害」よりも「自閉症スペクトラム(autism spectrum; AS)」の名称を用いられることが、1990年代以降は一般的となってきていました。
 昨年、米国精神医学会による『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』の最新版(DSM-5)が出版されました。ここでは、「広汎性発達障害」とその下位分類が廃止され、下位分類のない1つの概念として「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)」(日本精神神経学会の新しい訳語による)にまとめられました。本稿では、自閉症の特性をわずかにもちながらも社会適応できている人まで広く含めた群としてASを捉え、支援のあり方について述べたいと思います。

二次障害予防の重要性

 ASの特性とは、臨機応変な対人関係が苦手で、自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいという本能的志向が強いことです。特性の目立つ人は、それだけで社会参加に支障をきたします。一方、特性の目立たない人ほど社会参加がうまくいくかというと、必ずしもそうではありません。かえって、そのような人の方が他者と自分の違いに敏感で傷つきやすく、深刻ないじめ被害の対象になることもあります。ASの特性がわずかにでもある人は、変化に弱く、不安をもちやすく、誤解しやすいこと、環境因として慢性的にストレスの多い環境に置かれやすいことから、反応性の精神障害(いわゆる二次障害)のハイリスクといえます。
 筆者は、20年にわたる横浜市での早期発見・早期療育およびその後のフォローアップの経験から、幼児期までにわずかにでもASの特性が認められた場合、成人期に達してもASの特性が皆無にはならないこと、しかし、二次障害を防げると、AS特性が残存しながらも比較的良好な社会参加が可能となる場合があることを指摘しています。社会適応の障害に強く影響するのは、ASの特性の有無ではなく、二次症状の出現や定着の予防の程度なのかもしれません。
 2013年度から筆者が研究代表者を務めている厚生労働科学研究の調査によると、わが国で発達障害の早期支援を先端的に行っている地方自治体では、就学時に小学校教師が発達障害ではないかと疑いをもつ子どもがその地域の子ども全体の少なくとも10%はおり、就学までにすでに地域の医療機関でなんらかの発達障害と診断されている子どもが、多い地域では7%以上存在し、その過半数はASと診断されていました。この年齢帯では、支援の必要な子どもたちのすべてが診断を受け、特別な配慮を得ているとは言い切れませんが、小学生の少なくとも10%に何らかの発達障害の特性があり、その過半数にASの特性がある、と考えるのが妥当でしょう。このようにAS特性のある人たちが決して稀ではないことが明らかとなってきた現在、適切な支援体制を整備して二次障害の発現や定着の予防に努めることは、保健・医療・教育・労働の行政にとって必須かつ喫緊の課題と言えます。

支援の基本的な考え方

 ASの子どもたちの発達プロセスは、一般の多くの子どもたちのそれとは異なる特有の里程標に沿っていくと考える必要があります。「みにくいアヒルの子」の童話では、たくさんのアヒルの子のなかにいてもハクチョウの子はハクチョウの発達の道筋に沿ってハクチョウの大人に育ちます。「みにくいアヒルの子」とみるのではなく、「普通のハクチョウの子」として、普通のハクチョウの育ち方を保障すればよいのです。同様に、ASの人たち特有の発達プロセスがもっと研究され、「普通のASの大人」として社会参加を保障される必要があります。そのためには、ASの人たちの支援目標を「定型発達へ近づけること」ではなく、「AS本来の発達の道筋を保障すること」へと定めていく必要があります。
 思春期より前は、しっかりと構造化された環境を整えることによって、子どもの安心と安全を保障することが重要です。得意な領域の発達は十分に保障しつつ、苦手な領域を過剰に訓練することは厳に慎まねばなりません。自律スキル(自分にできることは自信をもって行い、無理なことはやらないと判断できるスキル)とソーシャルスキル(できないことがあれば他者に相談するスキルとルールを守ろうとする意欲)をバランスよく育てていくために、他者と合意しながら活動する習慣を身につけていくことが重要です。子どもが小さいうちは、子どもが意欲をもって取り組めそうなことを中心に大人から提案し、その提案に子どもが同意して活動するということを繰り返し行っていきます。
 二次障害を予防できたASの人たちは、思春期頃から分別がつき、真面目な性格が前面に現れてきます。この時期以降は、自分の将来は自分で切り開いていくという前向きな気持ちを尊重し、本人がさまざまな試行錯誤をすることを大人が黒子のように後方支援することが重要です。これを筆者は「支援つき試行錯誤」と呼んでいます。思春期前に合意の習慣が身についていると、支援つき試行錯誤がうまく機能します。
 二次障害が予防できると社会参加しやすくなるとはいえ、ASの人たちにとって就労は大きな関門です。資本主義社会においては、企業と従業員とのマッチングがうまくいくかどうかは、企業の死活に関わるのです。ASの人の得意・不得意が、他の社員の得意・不得意と相補関係となる会社が見つかれば、一般就労も可能です。しかしそのような会社が見つからない場合には、障害者枠での雇用を検討する方が有利となる場合もあります。障害者枠を用いても会社と本人のマッチングがうまくいかない場合は、福祉的就労となります。どのような就労があるかは本人の問題ではなく、社会システムと経済情勢によって左右されます。

二次障害が出現した場合

 ASの人たちにみられる問題の克服には、「向上のための訓練」と「ストレス反応解消のための休息」という2つの方向性があり、これらは時に二律背反の関係となります。二次障害は本人にとって不適切な環境に曝されたことに対するストレス反応ですから、二次障害が出現した場合の原則は休養です。不登校を例にとると、ストレス反応の結果として生じている不登校に対して、学校が体制上の工夫を全くせずに本人の登校努力だけを強いるのは、休養を保障せず訓練を強める対応であり、二次障害を悪化させます。本人に休養を保障しつつ、本人が生活しやすくなるよう環境の調整を行うのが正しい対処法です。薬物療法を行うこともありますが、あくまで補助的なものと位置づけるべきです。

おわりに

 自ら目標を定め、自分で判断して道を切り開き、難関や挫折を克服して目標に到達し、人生の喜びを享受する。ASの人たちにもその権利が十分に保障されるべきです。ASの人たち特有の発達プロセスと、それに応じた支援のあり方について、さらなる研究が求められています。


 当記事は2014年9月23日に当協会の「全国大会inやまがた」の基調講演の内容を2014年11月8日発行の当協会の機関誌「いとしごNo.149」に掲載した記事の引用です。