ご質問に児童精神科医がお答えします
東日本大震災に伴う横リハ発達障害対応マニュアル (1)

【目次】


Q1
「地震の後、母親からいつも離れません。もう地震ない?と聞いてきます」


 今回の大震災は空前絶後の規模で、余震も続いており、大人でも強い不安を抱きながら生活している状況です。小さなお子さんがお母さんから離れないのは、不安を少しでも紛らわし、安心感を得ようとしているものと思われます。しばらくの間はそのまま受け入れてあげてもよいでしょう。

 いつも抱っこしている必要はありませんが、このような状況では目の前からお母さんがいなくなると非常に不安が高まることがありますので、できるだけ親子で一緒の場にいることが望ましいでしょう。とはいっても、大人から子どもに過度にまでスキンシップをとらなくてもよいのです。また小学生の高学年になりますと、親子のスキンシップは時と場所を選ぶ必要もあります。

 発達障害、とくに自閉症やアスペルガー症候群の人は、先の見通しがよくわからないときの不安が他の人に比べて強い傾向があります。具体性の乏しい曖昧な説明はかえって不安を高めてしまいます。「もう地震ない?」と聞かれたら、具体的に「地震はときどきある。でも、だんだん小さくなっていくよ」「地震が来たら、お母さんもガマン。○○もガマンできるね」などの説明が不安の軽減に役立つことがあります。地震がだんだん小さくなっていく絵を描いて見せてあげると、先の見通しが一層イメージしやすくなるかもしれません。

 先ほど述べたように、実際に地震が起きた場合の対応についてふれておくこともお忘れなく。ただしとても小さな子では、当面の不安を取り除くことを念頭に置きますと、「もうないよ」とシンプルな答えを返してあげる方がよいこともあります。

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Q2
「テレビをみてショックをうけているようです。どう対応したらいいでしょうか」


 今回の大震災では、テレビなど多くのメディアを通して鮮明な画像が日夜報道されています。そのため、直接被災していなくても報道を見て強いショックをうけないかが気がかりです。とくに子どもの場合、自分に入ってくる情報の量や内容をうまくコントロールできません。そのため自分が忍耐できる容量を超えた心的負荷を思いのほかに抱え込んでしまうことが懸念されます。

 ショックを強く受けそうな画像はできれば避けるべきでしょう。もしもそのような番組や報道を見るときには、大人が一緒にいてやりましょう。あまり長くは見続けないでください。子どもが不安を語ったら、大人はまずは落ち着いて子どもの話に耳を傾けてください。それだけで子どもの不安は少しやわらぐものです。震災に関連した質問をしてきたら、子どもにわかる範囲の内容に限定して丁寧に答えてあげましょう。さらに、今後誰にならばそういう質問をしてよいのかを教えておくとよいでしょう(たとえば親や学校の先生)。

 よく眠れない、夜中に起き上がって騒ぐ、悪夢をみる、物を食べなくなる、めまいや頭痛がする、チックが起こる、物音に敏感になる、すぐに泣きだす、過度にイライラする、感情を失ったかのようになる、などの場合はショックの程度がかなり強いのかもしれません。年齢が大きい子どもでは、まれにですが、自分の身体とか自分の感情を自分のものと感じなくなる、以前の記憶を失う、といった状態になることがあります。やがて元に戻ることもありますが、このような症状が1週間以上続く場合には心の専門医療機関への受診をお勧めします。

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Q3
「電車が時刻表通りに来ないと、イライラして大声を出してしまいます。どうしたらいいですか?」


 電車が到着するまでの見通しを子どもに持たせること、それと電車を待っている時間に本人が何か楽しんで過ごせるものを用意しておくことのふたつがポイントです。自閉症やアスペルガー症候群のある子どもは、「予定が変わること」「待つこと」がとても苦手です。そうした障害のある子どもは、新しい場面や思いもしなかった場面に際して物事の捉え方を転換するのが不器用です。臨機応変に気分転換することも、ままなりません。そのために、一旦こうだと判断したことは容易に修正・変更がききません。こうした事情で自閉症やアスペルガー症候群の子どもは、予想しなかったり期待しなかったりした場面に直面するとたいへんな不安に襲われます。

 周囲から見ると、たいしたことはない、ほんのちょっとしたことのように思えるかもしれませんが、本人からすれば大問題なのです。そこを理解してあげることが大切です。電車が時刻表通りに来ないことは、現実にときどき生じるものです。ですから、“電車が遅れるバージョン”のような場面の組立てを、あり得る予定のひとつとして先回りして本人の頭の中に想定しておくとよいのです。本人の中に「対策」さえあれば、電車が遅れることも「想定内」の出来事に変わります。そうすれば見通しがつきますので、パニックを予防できます。

 しかしそれでも、なかなか来ない電車を待つ手持ち無沙汰な空き時間は残ります。こうした空き時間には、本人が楽しめるアイテムをあらかじめ用意しておくとよいでしょう。周囲の大人が一緒に遊んであげてもよいでしょうし、好きな電車の本などをひとりで眺めたりして時間を過ごさせる方法もあるでしょう。

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Q4
「梅雨時や夏になると落ち着かなくなります。どうしたらよいでしょう?」


 夏の初め頃から多くの地域では、どんより曇ってジメジメした季節に入ります。雨模様の日が多くなります。また、高い湿度だけでなく気温の不安定さも加わります。梅雨時には、気分がうっとうしくなったり、逆に落ち着かない気持ちになることが私たちにもよくあります。自閉症やアスペルガー症候群の子どもたちにとってもそれは同じです。ただ、そのような子どもの中には気温変化や高湿度にとても敏感な子もいます。

 そのようなお子さんの場合、できればエアコンなどを充分に使って室内の温度・湿度を管理することが望ましいと思います。暑さや湿気への対応・対策を上手にとることは、多くの自閉症やアスペルガー症候群の子どもたちには難しい課題だからです。そのような子どもたちは、自分のからだの状態を適切に認識できないこともありますし、たとえ認識できたとしても(空気がムシムシして不快だなあ、とか)、そのことを周囲の大人に言葉で相談したり訴えたりすることができません。結局のところ、イライラだけが募って落ち着きを失うことになるのです。

 周囲の大人としては、障害の特性を踏まえて、いわば先回りする形で室内の温度・湿度を適切に管理してあげるとよいでしょう。大震災の影響で電力不足が叫ばれ、世間であれこれ節電に努力していたりしますと、「この子にだけエアコンを使ってよいのだろうか」とか、「わがままではないだろうか、我慢させるべきではないか」とか考えてしまうかもしれません。ですが、発達障害の子どもたちの中にはどうしても環境調整のためにエアコンが必要な子もおります。それは、たんなるわがままと区別すべきでしょう。

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Q5
「おとなしく長い間、列に並んでいることができません」


 地震(余震)や停電の影響で、駅やお店で長い時間並ばざるを得ないことがあるかもしれません。発達障害の人の中には、長く並んで待つことがきわめて苦手な人がいます。それには、目的を早く遂げたいという衝動を自分でどうにも抑えることができない場合があります。わかっているのだけど、どうしてもじっとしていられないというわけです。こういうときには、並んで待っている目的事以外に何か注意を向けていられる関心事をつくってあげる必要があります。

 また、何もせずに空白の時間を過ごすことができない場合もあります。その理由には、いつまで並ぶのかの見通しが持てないで不安になっているためのこともありますし、実はその場所で耐えがたいような音刺激(にぎやかな騒音、赤ちゃんの泣き声など)が聞こえてくるためのこともあります。いつ頃まで並んで待てばよさそうなのか見当がつくならば、予め伝えてあげましょう。

 並んで待つイメージが持てないこと(たとえばトイレなどに並ぶ列が長くて入口<目標地>が見えない)に対しては、事前に何をするために並ぶのかを言葉や絵で教えてあげましょう。必要が生じたときに即座に手渡せるよう、本人が好きな絵カードや本、携帯型のゲームなどを携帯しておくとよいかもしれません。携帯電話やスマートフォンにお気に入りの写真やビデオを収録しておけば、それを見ながら並ぶことができます。 “並ぶ”ということが決して“何もしない”ことではなく、積極的な意味ある行動なのだということを言葉や絵を使って普段から学ばせておきますと、このようなときに効果がでます。

 音刺激への感覚過敏がある場合には、できれば列を一旦離れて静かな場所を確保してあげましょう。ヘッドフォンで外部からの音を遮断するとよい場合もあります。発達障害の人は、外見上他の人と変わらないため、傍から見るとわがままを通そうとしているようにみえるかもしれません。しかし本当は、小さなストレスでも、それをうまく切り抜けることのできない困難さがあるのです。そこを理解してあげることが大切です。

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2011年4月
横浜市総合リハビリテーションセンター児童精神科医グループ