「自閉症の方に関する弁護士あるある」全6回+完結編 第2回 辻川圭乃先生(弁護士)
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いとしご171(2018/5/8)~179号(2019/11/8)で掲載したものをWEBで転載しています。
第2回 被害者になったとき?
① 被害にあったらどうすればよいか
前回、自閉症の方は、その障害特性ゆえに、いろいろな生きにくさを抱えている分、いろいろなところでいろいろなトラブルに巻き込まれることがとても多いという話をしました。今回は、そのうち、自閉症の方が実際にどんな被害にあっているのか、被害にあったときにどうすればよいか、そんなとき、弁護士はどのような役割を果たすのかを、ほんの一例ですが、お話ししたいと思います。
② 消費者被害
Aさんは、軽度知的障害を重複する20代の男性です。あるとき、携帯電話である懸賞に応募したところ、当選しましたという返事がきました。喜んで、指定された場所に景品を取りに行くと、そこには若い女性が待っていました。Aさんは、親しげに話しかけてくる女性に言われるまま、その場で30万円もする男性用のダイヤモンドのペンダントを契約してしまいました。毎月9千いくらのうん10回払いですが、Aさんは、「ダイヤだから」と満足していました。そんなある日、キティちゃんの封筒が届きました。先日の女性からで、「ダイヤを買ってくれてありがとう、また来てね。」と書かれていました。Aさんは、喜んで、その女性に会いに行き、今度は、女性用のルビーのネックレスを買わされてしまいました。
請求書を見つけたAさんのお母さんに連れられて、Aさんが弁護士のもとに相談に訪れたときには、すでにクーリングオフ期間は過ぎていました。でも、6か月以内でしたので、消費者契約法に基づいて取消す旨の通知を内容証明郵便で出しました。相手会社はちょっと抵抗しましたが、いろいろ交渉して、結局、ダイヤとルビーは返品して、既払金を返してもらいました。
人をすぐ信じてしまい、かつ、断ることが苦手という人が多い自閉症の方は、このような悪質商法や不当請求に簡単に引っかかってしまいます。このほかにも、消費者金融の貸金契約や携帯電話の契約の名義貸しや連帯保証も、言われるままに署名捺印してしまいます。世の中には、障害特性に付け込んで、虎視眈々と餌食にしようと狙っている悪い輩がたくさんいるのです。そんな時は、ともかく支払いをしないで、すぐに弁護士に相談してください。
③ 虐待被害
Bさんは重度の知的障害と自閉症を重複している男性です。施設に入所中、ひどいけがをしました。当初施設側はBさんが自分でこけたと言っていましたが、とてもそんなくらいでできる傷ではありません。診察をした医師が虐待通報をしました。Bさんのおばさんは弁護士に相談して、施設の職員らを傷害罪で告訴しました。また、施設に対して損害賠償を求めましたが、施設側が争ったため、裁判をすることにしました。
ある企業に就労しているCさんは、高機能の自閉症があります。事務能力は高いのですが、上司との折り合いがどうもうまくいきません。ひどい言葉で叱責を繰り返されますが、Cさんはなぜ怒られるのかがわかりません。職場の同僚もCさんを無視します。耐え切れなくなったCさんは退職を余儀なくされました。Cさんから相談を受けた弁護士は、虐待通報をするとともに労働局に調整を求めました。その結果、Cさんは企業から謝罪を受けることができました。
④ 差別被害
Dくんは、自閉症があり、多動です。そのため、安全のために校外学習にお母さんが付き添ってくれるよう学校から言われました。相談を受けた弁護士は、学校長や教育委員会と交渉をしました。母親の付添を求めることは不当な差別的取扱いにあたり、Dくんの場合、多動といっても母親の付添が不可欠なほどではなく、正当な理由がないことを説明しました。結局、Dくんはお母さんの付添なしに校外学習に参加することができました。
⑤ まずは相談
この他にもまだまだいろいろな被害があります。ともかく被害にあったときは、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
全6話内容構成
第1回 自閉症の方が弁護士に関わるのはどんなとき?
第2回 被害者になったとき
第3回 加害者になったとき
第4回 刑事事件について
第5回 障害年金、支給量、生活保護
第6回 親なき後の問題
完結編