「自閉症の方に関する弁護士あるある」全6回+完結編 第3回 辻川圭乃先生(弁護士)
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いとしご171(2018/5/8)~179号(2019/11/8)で掲載したものをWEBで転載しています。
第3回 加害者になったとき?
① 相手の眼鏡をこわしてしまった!
必ず賠償保険に入っておきましょう。ただ、相手が非常に感情的になって、賠償しただけでは許してくれなかったり、法外な請求がされたりします。そのようなときは、弁護士に被害弁償の交渉を頼みましょう。被害者が感情的になる場合は、障害理解ができていない場合が多いです。そのような場合は、家族が直接交渉するより、代理人として弁護士に入ってもらった方がビジネスライクに事が運びます。
② 不審者に間違われやすい?
ブツブツ言いながら歩いている、奇声をあげる、人との距離感がつかめないので異様に近づく、自閉症の人が有しているこのような特性から、何もしていないのに、ただ歩いているだけなのに、不審者に間違われて、警察に通報されることがよくあります。
また他人のシャツのボタンが一番上まで留まっていないと気がすまなくて、痴漢と間違われたり、カバンのファスナーが空いていると気持ち悪くて、ひったくりと間違われたり、人の庭に箱が乱雑に置かれているのが我慢できなくて、庭に入り込み住居侵入と間違われたりと、強いこだわりゆえに犯罪者と間違われることも少なくありません。
③ 突然逮捕されたら?
誤解が解けたら良いのですが、ときには逮捕されてしまうこともあります。その時は「当番弁護士」を呼んでください。逮捕された本人はもちろん、親でも支援者でも、知人でも誰でも弁護士会に電話をすれば、当番弁護士を呼ぶことができます。当番弁護士は直ちに面会に駆け付けます。費用は無料です。電話の際に、必ず、本人に自閉症があることと、「詳しいことを説明したいので面会前に電話をください」と忘れずに伝えてください。当番で派遣される弁護士が必ずしも自閉症に詳しいとは限りません。本人の障害特性、コミュニケーションの特徴その他心配なことをお伝えください。
自閉症の人は、オウム返しをするので、「やったのか」と警察官に聞かれて、「やったのか」と答えてしまいます。そのためやってもいない犯罪をやったことにされてしまう危険性が極めて高いです。また、状況を上手に説明できないことが多いので、免罪の可能性も増します。障害理解のある弁護人が必要です。
④ 自閉症の人は犯罪を起こしやすい?
そのようなことはありません。ただ不適切な支援や障害特性への無理解が引き金となって、突き飛ばすなど他害行為に及んでしまうことがあります。ときには火をつけたり、万引きという形で問題行動が出てしまうこともあります。原因を取り除けば、再犯は防げます。ただ、本人はその原因を上手く話すことができません。弁護人は、内心を語ることが苦手な自閉症の人の声を代弁します。
かつて、殺人の動機を問われて、「人を殺してみたかった。」と述べたと報道された自閉症の少年がいました。しかし、それは文字通りの意味でそう述べたのではありません。言葉の意味がわかっていなかっただけです。けっしてモンスターなどではないのです。
⑤ 自閉症の人は、反省ができない?
反省ができないのではありません。ただ、場の空気が読めないために、法廷でキョロキョロしたりして、不遜な態度ととられてしまい、反省をしていないように見られてしまいます。そのため必要以上に厳罰に処せられてしまう傾向があります。
何度も繰り返してしまうと、やはり反省をしていないとみられてしまいます。しかし問題行動を引き起こす原因を除去することなしに、同じ環境のもとに返したら、同様の問題行動が起きるのは当たり前です。繰り返すのは、本人の反省がないのではなく、障害特性に配慮した適切な福祉的支援がないからです。
弁護人は、福祉関係者と連携をして、同じようなことが起きないように環境を調整します。
全6話内容構成
第1回 自閉症の方が弁護士に関わるのはどんなとき?
第2回 被害者になったとき
第3回 加害者になったとき
第4回 刑事事件について
第5回 障害年金、支給量、生活保護
第6回 親なき後の問題
完結編