「自閉症の方に関する弁護士あるある」全6回+完結編 第5回 辻川圭乃先生(弁護士)
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いとしご171号(2018/5/8)~179号(2019/11/8)で掲載したものをWEBで転載しています。
第5回 年金、支給量、生活保護
① 障害基礎年金
これまで、被害にあったときや加害者になったときのお話をしましたが、自閉症の方が生活していくうえで直面する困りごとはそれだけではありません。生活に直結するもののひとつとして年金があります。
たとえば、障害基礎年金をもらおうと申請しても、支給してもらえないかもしれません。あるいは、これまで年金をもらっていたのに、就労したら年金を打ち切られたなんてこともあります。年金事務所がダメといったら、仕方がない、諦めないといけないのでしょうか。そんなことはありません。不利益処分に対して審査請求ができますし、再審査請求もあります。それでもだめだった場合でも、裁判で争うことができます。
申請や審査請求等は、社会保険労務士さんに相談してすることができます。でも、裁判になると弁護士が必要です。裁判では、不利益処分の取消しや年金を支給せよとの義務付けを求めます。
昨年(2018)、知的障害がある男性に対して、障害基礎年金を不支給としたのは不当だとして、国に処分取消しを求めた訴訟の判決が、東京地裁でありました。裁判長は処分を取消し、今後の年金を支給するとともに過去5年分の年金(年約78万円)を支払うよう国に命じました。原告は中度の知的障害がありました。東京の民間企業に採用され、清掃などの作業で月7万~9万円程度の収入を得ていました。判決は「男性は会社や母親の手厚い援助や配慮の下で就労できているに過ぎず、作業内容も単純なもの」と指摘し、障害等級2級に該当し、男性は年金の支給対象になるとしました。
最近は、裁判まで行く前に、審査請求の段階から弁護士が代理して行うことも増えてきました。そのため、日弁連でも、昨年(2018)3月、初の障害年金に関する本格的解説書を発行しました(「法律家のための障害年金実務ハンドブック」(民事法研究会)。
②支給量
地域で生きていくうえで、福祉サービスは不可欠です。特に重度の障害がある人が地域で自立して暮らすためには使える介護の種類や時間数が重要です。また、支給量は自治体ごとに大きな格差があるのが現実です。これも、行政がこれだけと決めたら、ははぁ~と従わなければならないのでしょうか。そんなことはありません。
日本では長い間、障害ゆえに必要な介護や支援の多くを一部の人や家族が負担してきました。しかし、どんな重度の障害があっても、地域で自由に暮らすことは基本的人権であり、障害のある人が基本的人権と自由を確保するためには、介護保障が不可欠です。なので、きちんと必要な支給量を出すべきだと行政に要求することは当然の権利なのです。でも、日頃から顔馴みの役所の人と喧嘩するようなことはしたくないですよね。そんなときも弁護士が行政との交渉からかかわることができます。交渉がうまくいかなければ裁判で闘うことも可能です。
2012年 4月25 日、和歌山地方裁判所は筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者が1日24時間の介護を求めていた裁判で、和歌山市に対し、介護保険と合わせて1日当たり21時間以上の介護支給量を義務付ける判決を言い渡しました。
この裁判の代理人弁護士である長岡健太郎さんと支給量裁判を多く手掛けている弁護士の藤岡毅さんが共著で、「障害者の介護保障訴訟とは何か! 支援を得て当たり前に生きるために」(現代書館)を書いています。その中に詳しく書かれていますが、介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネットも立ち上がっており、同ネットのHPに具体的な相談を寄せることもできます。
③生活保護
このほか、生活保護を申請したいと思って役所に行ったところ、なんだかんだと言われて、なかなか申請書類を渡してくれないので、諦めて帰るということもあります。生活保護の増加に歯止めをかけようという役所のいわゆる水際作戦というものです。しかし、障害年金だけでは健康で文化的な生活には足りません。こんな場合に、弁護士が申請に一緒に行く同行支援というものがあります。同行支援にかかる弁護士の費用については心配いりません。日弁連の事業で出してもらえます。
④最後に
このように、自閉症の方が暮らしていくうえで、弁護士が役に立つことはいっぱいあります。このほかにもまだまだありますが、それはまた次回にしましょう。
全6話内容構成
第1回 自閉症の方が弁護士に関わるのはどんなとき?
第2回 被害者になったとき
第3回 加害者になったとき
第4回 刑事事件について
第5回 障害年金、支給量、生活保護
第6回 親なき後の問題
完結編